私の名前は熊田久真子。
小さな会社で働いている。
鮭とパスタと、
ちょっとお酒が大好きな、
普通の女子だ。
企画会議は、だいたい眠い。
今日の議題は「ご当地グルメ特集」。
少し前。
私たちは研修を兼ねた社員旅行で、
茨城県の大洗へ行ってきた。
そこで見つけたネタを持ち寄って、
どれを特集に使うか決めよう
と、いう流れだ。
正直、私はこの会議に
まったく乗り気じゃない。
なぜなら…
この旅行中「色々」あって、
もう忘れたかったから…。
でも現実はそう甘くない。
「これ、いいと思うんですよ!」
松永Dが、
元気よく手を挙げた。
「水戸の納豆スナック」
「安くて軽くて、お土産にもなる」
コンビニに置いたら、
地元の子どもたちのおやつにもなるし、
食べ歩きにも向いてる。
というのが、彼の主張だ。
「なあ、熊田もそう思うだろ?」
急に振られた。
正直、味はほとんど覚えてない。
覚えてないというより、
思い出したくない…。
あの松永Dとペアを組まされ…、
一日中ヲタク話を聞かされ、
納豆スティックをかじった、
あの微妙な空気だけは覚えてる。
でも…、
味は感じなかった。
メンタル的な問題で。
だが、ここで黙るわけにもいかない。
熊田久真子、24歳。釧路市出身!
会社員として…。
えっと……、そうですね…。
とりあえず話し始める。
高校生の頃、
部活帰りにパンを買って、
食べながら汽車を待ったこと。
セコマ(北海道のコンビニ)のカツ丼が、
ごちそうだったこと。
つまり…
食べ歩きは、
私にとって「小さな幸せ」という話だ!
自分でも驚くくらい、熱が入っていた。
よくやったぞ、わたし!
釧路のお父ちゃん、お母ちゃん。
久真子、東京でも頑張ってます!涙
が…
そのときだった。
「ちょっといいですか?」
低くて、やけに整った声。
外部コンサルの…、あのウザ男。
社員じゃないから、
今回の研修には呼ばれてない。
そのせいか、
今日はいつもより、機嫌が悪そうだった。
「そもそも、食べ歩きという行為自体が」
「マナーという観点でどう評価されてるのか」
「整理されてますかね?」
「未成年層がそれを」
「エミュレートした場合の影響を」
「どうリスクマネジメントする」
「想定なんですか?」
「熊田さん」
!?
え?
わたし??
「危険ですし、炎上リスクもある」
「社会的責任として ─ 」
「そもそもフィジカルリスクもありますし」
「SNS上でのバイラル拡散による」
「レピュテーション低下も懸念されます」
ちょちょちょ…。
「企業としてのガバナンスとか」
「社会的責任の文脈で」
「どう説明するつもりなんですか?」
「熊田さん」
!?
おいおいおい!
だからそれ…
わたし!?
横文字と正論が、
私に向かって一方的に飛んでくる。
そもそも私は、
納豆スナックなんて興味ねーし!
おい松永D…
あれ?松永…松永ー!!
松永Dは…
「あっ!どーも松永でございます〜」
「すみません、折り返し頂いて〜」
「はい、その件につきましては〜」
くっ💢
ウソくさい「電話小芝居」で
会議室を出て行った。
ウザコンサルは
鬼の首でも取ったような顔で
わたしを見ている…。
反論したい。
今すぐこのウザ男をぶっ飛ばして
辞表を叩きつけたい…。
なんなら、
帰りがけに松永もぶっ飛ばしたい…。
くっ…💢
でも、
言葉が出る前に、横からそっと声がした。
「クマ子ちゃん…」
広報担当の葵さんが、
テーブルの下で、そっと制してくれた。
あ…。
はい、、け、検討します…。
私はギリギリ飲み込み…
社会人も辞めずに済んだ。
結局、その日の会議は時間切れ。
席を立ちながら、私は思う。
観光地では、
みんな普通に食べ歩く。
なのに、なんで…
なんで…
食べ歩きがダメだって
ギャーギャー言われなきゃなんないのよ〜〜!!




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