私の名前は熊田久真子。
小さな会社で働いている。
鮭とパスタと、
ちょっとお酒が大好きな、
普通の女子だ。
今日は最悪…。
お気に入りの傘を
電車に置き忘れた。
よりによって、
あの淡いミント色のやつ。
心が弱ってる日に限って、
こういうことが起きたりする。
駅の「忘れ物センター」に向かうと、
そこには独特なオーラを放つ
駅員が待ち構えていた。
無表情。
無愛想。
そして謎の「圧」。
あの、傘を忘れちゃって……。
私が話しかけた瞬間、
その駅員が淡々と言った。
「まずは前提整理から入ります」
え?
「ご申告の内容を事象レベルと」
「と物品レベルで切り分けます」
は、はあ…
「該当のハードウェアは」
「色・形状・利用列車の三軸で」
「特定が可能ですか?」
……な、なんだコイツ…
いや、駅員じゃなくて、
コンサルじゃん。
どっかで聞いたことある。
このウザい話し方…。
けど傘は大事だし、
私はなんとか受け答えを続ける。
えっと…ミント色で、細い持ち手で……。
「結論ベースでお願いします」
結論!?
「ええ、色・形状・乗車時間」
「その三点だけで充分です」
なんで駅の窓口で
コンサル語を浴びてるの、私。
質問もどんどん飛んでくる。
「購入時期は?」
「支払方法は?」
「置き配でしたか?」
必要?
それ必要??
あの…いつ買ったかは…
「では、ユーザー記憶ベースの」
「時期推定で構いません」
だからコンサル語やめろ!!!!
でも傘のためには…、
耐えるしかない。
私は半泣きになりながら
必死に答え続けた。
そして、
ようやく駅員が端末を操作し
「では見つかり次第ご連絡します」
と言ったとき…
私はへたり込みそうになった。
まさにその瞬間。
「なんだ?」
「ショートカット女、お前も落とし物か?」
!!
……出た。
ウザコンサル本人!
うちの会社の外部コンサル
神沼龍司。
ウザいだけが取り柄の男…。
お前もか?って、
こっちのセリフじゃああ!涙
「俺も電車にビニ傘を忘れてな」
ウザコンサルは駅員を見る。
駅員も、ウザコンサルを見た。
次の瞬間 —
なぜか二人の空気が一致した。
「まず前提のすり合わせだが」
「もちろんです」
「共通認識づくりが重要ですから」
なにこれ。
ウザコンサル語×鉄道コンサル語
地獄タッグ!!
10分以上かかった私の手続きが、
ウザコンサルは30秒で終わった。
「こちらですね。すぐ出せます」
はっっや!!!
ウザコンサルは颯爽とビニ傘を受け取り、
一言。
「コミュニケーションコストの差だな」
「ま、勢いだけのお前には無理か」
「じゃ、行くわ」
去っていく背中がムカつくほどスムーズ。
いやいやいやいや!!!
ちょっと待て!!!
私のあの苦行は何だったの!?
なんであの駅員、
一般客にはあんな不愛想なのに、
ウザコンサルとは
秒で意思疎通できんのよ!!
周りを見れば、
他のお客さんも固まってる。
みんな、明らかに萎縮してる。
あれ…
もしかして…
やっぱり、私フツーだよねえ?
それにしても…。
駅員とコンサルって、
なんでこんなに態度悪いんだろ…。
私の傘は、
結局見つからなかった。






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