私の名前は熊田久真子。
小さな会社で働いている。
鮭とパスタと、
ちょっとお酒が大好きな、
普通の女子だ。
家のパソコンが、
ネットにつながらなくなった。
電源も入るし、画面もつく。
でもブラウザだけは
沈黙したまま。
……これ、もう私じゃ無理。
その日私は
何気なく上司に相談してみた。
「じゃあ見てあげようか?」
え?♡
上司はあっさり言ってくれたけど、
“部下の家にひとりで行くのは…”
という気遣いが顔に出ている。
でも、その話を聞いていた
隣席の葵さんがふわっと入ってきた。
「私も一緒に行きましょっか?」
その一言で話が一気に進み…
土曜日の午後、上司と葵さんが
私の家に来ることになった。
前日の金曜日。
私は完全に、浮かれていた。
明日の15時に…
上司がこの部屋に来るっ♡
このときの私は
壊れたパソコンの事など
すでに頭から消えていた。
─ が。
土曜の朝、10時。
上司から突然メッセージ。
「ごめん、クマ子」
「午前中の予定が早く終わっちゃって」
「それで夕方別の用事が入ったから」
「11時に行ってもいいかな?」
すぐに葵さんが
「私は大丈夫ですよ〜」
とメッセージを送ってきた。
!!
脱いだばかりのパジャマ。
ぐちゃぐちゃの髪。
昨日の夜飲んだビールの空き缶と、
ポテチの袋!!
ヤバい!!
私は上司と葵さんに
「大丈夫です☺️」と返信しつつ…
歯を磨き、顔を洗い、
髪をセットし、化粧もして、
部屋を片付け、シーツを整え、
今日の占いもチェックして、
勝負服っぽくないコーデに着替え、
ぐちゃぐちゃの衣類は
とりあえず洗濯機に放り込んだ。
はぁ…はぁ…。
そして…
11時って、お昼どうするの!?
なにも準備してないけど!?
…。
ふっ…。
この熊田久真子を甘くみるなよ?
上司と葵さんめ…。
小姑みたいに突然来たって
私は24歳の現代っ娘!!
こんなときこそ、Uber Eats!
文明の力で”この恋”
実らせてやる🔥
しかし…、スマホは沈黙。
え?なんで??
スマホまでネットつながらないんだけど…。
仕方ない、パソコンで注文するか。
🖥️沈黙。
あ…、パソコン壊れてるんだった…。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!
あと20分でふたり来ちゃう!
もう自分で作るしかない!
冷蔵庫っ!
しかし…
卵とネギと日本酒とビール。
ハイボールと缶チューハイに紹興酒。
この家は酒しかないのかあああ!!
って、私の冷蔵庫だあああ涙
でも、棚を見ると
“レンチン鶏ごぼうおこわ”があった。
いや無理だよ、これそのまま出すとか……
でも時間がもうない…。
いや、でも炒めたら……
チャーハン……?
いやおこわだよ!?
いやでも!
もう……いくしか……!!
私は半分泣きながら
フライパンを振った。
もち米がやたら反抗してくるし、
フライパンの上は小さな戦争だったけど…、
なんとか“見た目はチャーハン”になった。
その瞬間。
廊下に足音が近づいてきて、
心臓が破裂した。
玄関の前で、私はそっと深呼吸する。
……いける。私、笑顔っ……!
ピンポーン。
ひゃっ……! あ、はいーー!!
上司はパソコンをサッと見て、ひとこと。
「Wi-Fiルーターがイカれただけだね」
「再起動で直ったよ」
え?
でも、今日はスマホも使えなったんです。
すると葵さんが私を見て、
「クマ子ちゃんって」
「確か”カニカカモバイル”だったよね?」
「今日の午前、通信障害出てたよ」
な…。
Uber Eats……頼めたじゃん。
(だったら私、おこわ…なんで炒めたの…?)
「お!クマ子」
「昼メシ用意してくれてたの!?」
え!?
いやこれは…、その…
「嬉しいっ!」
「じゃあ、せっかくだから頂きましょっ」
今からでもUberした方が…
でも、二人はちゃんと食べてくれた。
上司は「しっとり系かあ」などと言い
葵さんは「香港風だね」とフォローしてくれた。
「さてと…」
「じゃあ俺は次あるから、もう行くね」
はい、今日はありがとうございました。
上司は席を立ち、
キッチンの前を通って玄関の方へ向かう。
私はその背中を追った。
しかしその時…
私がキッチンに放置していた“とある物”を
上司は見てしまった。
「ん?」
「鶏ごぼうおこわ??」
!!
いやああああああ!!!
見ないでくださああああいいい!!!!





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