鮭とパスタと、
ちょっとお酒が大好きな、
普通の女子だ。
私は、この会社に
苦手な男が三人いる。
まずはあのウザコンサル。
これはもう不動のワースト1。
ウザいだけが取り柄の男だ。
二人目は…、
なかなかプロポーズしてくれない上司。
私、ずっと待ってるのに…。
(なお、付き合ってもいない)
そして三人目は、
ディレクターの松永悠斗。
あいつは、この前の社員研修で
「一日ペア」を引き当ててしまった相手。
人生最悪の日だった。
アニメの話を延々とされ、
ずっと距離が近くて、
私は半分気が狂いかけてた。
以来、松永と目が合うたびに
私は心臓がスンッと冷たくなる。
だからオフィスでも
なるべく視界に入れないよう、
日々ヒヤヒヤしながら生きている。
そんな私だが、今日は出社した瞬間、
とある違和感に気が付いた。
松永が「オフィスの一番端っこ」に座り、
全く動かない。
いつもなら、
①私の方をキョロキョロ見る
②私の行く方向へ歩いてくる
③「DVD貸そうか?」などと言ってくる
みたいな“気持ち悪い日課”があるのに、
今日はゼロ。
静か。
小さい。
気配が薄い。
え…どうしたの、あいつ??
でも、絡まれないなら、それでいい!
平和だぁ〜。
私は久しぶりに
穏やかな午前を過ごしていた。
しかし午後。
私は松永と同じ会議に、
出ることになった。
しかし会議室に入ると、
松永はやっぱり端っこ。
壁にくっつきそうなぐらい
小さくなって座ってる。
(なんだあれ。怖いんだけど…)
でも、
関わらなくて済むなら助かる。
今日はホント「対松永」でツイてる日だ。
─ と思ったその瞬間。
松永が手を滑らせ
資料をテーブルの外へ落とした。
「あっ……」
前屈みになって拾おうとした、
その瞬間。
!!
私は見てしまった。
松永の、
頭頂部に……
髪が…………
ない。
本当に、
まっっったく無い。
えっ……!?
声が漏れそうになるのを、
私は必死で飲み込んだ。
誰も気づいてない。
見たのは私だけ。
なんで……
なんであの人……
ザビエルになってんの?
混乱してるのは私だけ。
会議は淡々と進んでいく。
松永は、相変わらず端っこで
一度も発言せず、小さくなっていた。
(どうしたんだろ……あの頭……)
実は…
— 前日の夜 松永の家 —
松永は通販で買った電動バリカンで
自分の髪を切っていた。
いつもは千円カットに行っていたが
「微妙に値上がった」「面倒くさい」
という理由で、
自分でやり始めたのだ。
オシャレな髪型にはならないが、
整える程度なら自分でもできる。
なにより、
浮いた散髪代でDVDが1枚買える。
そのDVDで
熊田と仲良くなれるかもしれない♡
などと考えていたせいで
松永はアジャスターを付け忘れたまま、
バリカンを頭に当ててしまった。
バリバリバリバリ〜〜〜!!!
「あああああああああああ!!!!」
頭頂部をガリッと
派手に“丸ごと”いってしまった。
被害は想像以上に大きい。
仕方なく、
松永は髪が生えてくるまで
“誰にも見られずに生きる作戦”を
決め込んだ。
そんなわけで、
会議室でも小さくなっているのだ…
— 再び午後の会議室 —
「あれ?」
「ディスプレイ消えちゃった」
プレゼン中だった
営業の西野美咲が言った。
「あ、HDMIケーブル抜けてる!」
松永が資料を落とした時、
抜けてしまったらしい。
「刺し直すので待ってくださいね」
「松永さん…、後ろごめんなさい」
と言って
西野は松永の背後を通過した。
その時。
あ…。
え…??
西野の視線は、
HDMIケーブルではなく…、
眼下に広がる松永の頭頂部に釘付け。
松永も”やべっ!”という
顔をしている。
しかしこの状況で、
西野がこう言ったのは
”武士の情け”だったのかもしれない。
「松永さん」
「頭がザビエルになってますけど…」
「どうかしたんですか?」
「いやあああああああああああああ!」
そして、やり手の営業女子は
すかさず、こうフォローした。
「でも…」
「ザビエルもハゲじゃなかったって」
「いいますからね♡」





コメント